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ユーモレスク
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長野 まゆみ (2003/02)
マガジンハウス

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   ユーモレスク (ちくま文庫 な 36-1) / 長野 まゆみ


「五目の稲荷寿司と麦茶を持って、上機嫌で出かけたの。……ほんとうにうれしそうだった。たかだか電車で一時間の水道局の貯水湖へ行くだけなのにねえ、調子にのって湖に落ちないといいけどって、母と笑いながら見送った。……あのままもどらないなんて……思わなかった……から、」
 涙があふれた。長いあいだ、このことでは泣くまいと決めていた。泣くことによって弟の不在が確定してしまうのを恐れていた。だが、もはや真哉【まさや】がこの世にいないことは疑いようがない。両親もわたしも、それを承知しながらただ、だらしなく先のばしにしてきただけなのだ。
(「ユーモレスク」)

「たぶん、真哉は平気よ。どんなかっこうをしていたって、自分に落ち度はないと思うかぎり行きたいところへ行くの。そういう子だった。」
(同上)

 レースの縁飾りのついたランジェリーがハンカチのようにたたまれて、抽斗【ひきだし】のなかにおさまっている。テーブルのうえで、摘みとった花のつぼみのようにならんでいるのが、みんな素肌にまとうものだった。これを身につける人は、花びらほどの重さも感じないだろう。古風なばらもあれば、一夜かぎりの徒花【あだばな】もある。だが、野の花はない。ここは自然とは無縁の装いに、至福をおぼえる人々が集う花園なのだ。
(「アラクネ」 『ユーモレスク』ちくま文庫 2007.7.)

※【】内はルビ
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07/15 03:20 | 私家抄本室 | CM:0
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